濡衣
【東京雑学研究会編】
【雑学大全】 生活 > 服装
「濡衣」は無実の罪を着せられること。例えば、偶然、犯罪現場にいあわせたため犯人に間違えられてしまったときなど「濡衣を着せられた」と表現する。
どうして冤罪が「濡衣」なのか? 古くから歌学書に書かれているのは次のような逸話だ。
昔、継娘をいじめていた継母が継娘の寝床に漁師の濡れた衣服をおいておき、ふしだらな継娘のところに通っている男がいる、と父親に告げ口した。継娘は怒った父親に殺されてしまう。このことから身に覚えのない罪を着せられることを「濡衣」というようになった、というのだ。
しかし、「濡衣」はもともとは文字どおり「濡れた衣類」にすぎなかったのが、徐々に意味が変わっていったという説もある。
『万葉集』巻九には「あぶり干す人もあれやも濡衣を家にはやらな旅のしるしに」と歌われている。「旅の途中では濡れた着物を干してくれる人もいない。だからそのまま、旅のしるしに家に送ってやろう」と、当時の旅行の苦しみと望郷を詠んだ歌だ。この歌では「濡衣」は「濡れた衣類」の意味で使われている。
ところが、奈良時代から平安時代になると「濡衣」の意味が少しずつ変化してくる。
『古今集』巻八には「かきくらしことはふらなむ春の雨に濡衣きせて君をとどめむ」と詠まれている。「しとしとと降る春雨がもっと降り続いてくれたら『こんなに雨の降る中をお帰りにならなくていいでしょう? だからもうちょっと、ここにいらしてくださいな』と、春雨のせいにして、通ってくる男性を引き止めたいものだ」と春雨に「罪を着せる」といったニュアンスを漂わせている。
いずれにしても、いくつかの説があって、どれが本当なのかは今も絞りきれていない。
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