隈取
【東京雑学研究会編】
【雑学大全】 趣味 > 芸術
昨今、歌舞伎は人気上昇中で、派手な衣装と独特の濃い化粧は誰でも知るところである。これらによって、登場人物の人柄やそのときの気分が、芝居の場面に応じて多彩に表現されている。
歌舞伎独特の濃い化粧法は、「隈取」と呼ばれている。これは、歌舞伎以前の演劇である伎楽、舞楽、能楽に見られた仮面の名残のようである。歌舞伎は、仮面を捨てはしたが、化粧法には仮面から引き継いだ伝統が生きているようだ。
白粉は、単に美しく見せるために塗るのではなく、仮面と同じような呪力をつけるためであった。
例えば、お祭りの稚児の化粧は、神の姿を装い、神の依童の資格を得るためであった。封建時代の身分の高い女性たちの厚化粧にも、夫や主人に素顔を見せることを非礼とする思想があったのである。
この厚化粧、歌舞伎においては「白塗り」「赤っ面」「砥粉塗り」「隈取」と分類される。中でも有名なのが「隈取」。これには赤、青、茶の三種類があり、役により模様が変わる。赤い隈は正義や武勇を表し、正義の味方、豪傑、超人の役に使われ、人が力んだときに全身に浮かび上がる筋肉や動脈を誇張して、強さを表現している。
青い隈は、冷酷で悪知恵のある悪人、悪霊、恐怖を表している。茶色の隈は、妖怪、怪物、魔性のものを表す。
顔面に隈を取る技法には、中国古典劇の化粧法である「瞼譜」の影響があるとされるが、過去に多くの歌舞伎役者が独自に考案し、歌舞伎の様式的な演出とともに発達させた技法も六〇~七〇種類はあると言われている。
かつては、ろうそくの明かりに照らされて演じられた歌舞伎。役者の顔の隈取が生き生きと動いて、観客をひきつけたと言われている。現代の照明技術の進歩が、ちょっと恨めしい。
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