木
【東京雑学研究会編】
【雑学大全】 生物の不思議 > 植物
日本国内では、たった一本しかないという珍しい木が、アイラトビカヅラである。
カヅラは、マメ科のつる性植物で、丈夫なつるは、古くから丸太を結ぶのに使われたり、髪飾りの材料にされてきた。
中国の中部には、アイラトビカヅラと同じ種類のものが分布しているが、日本では熊本県の鹿本郡菊鹿町相良に、ただ一本生育しているだけである。
この木は、樹齢が一〇〇〇年以上と見られる古木で、一九五二(昭和二七)年に、国の特別天然記念物の指定を受けた。樹齢の古さにかかわらず、木の勢いは旺盛で、近くにある樹木や、設けられたコンクリート棚にからみ、びっしり茂っている。
以前はほとんど開花しなかったが、近年になってから、長さ七センチほどで穂状の暗紫色の花を、毎年五月に一〇個以上咲かせるようになった。
そればかりか、一九六二(昭和三七)年に人工授粉に成功すると、長さ四〇センチという大きな実がなった。実の表面には赤褐色の毛が生え、中には三センチほどの平たい種子が七個入っていたという。
中国では、常春油麻藤と呼ばれているこの木が、どうして日本に一本だけ生えているのか、不明である。おそらくは、中国からもたらされこの地に根づいたと思われるが、真相は謎のままである。
アイラトビカヅラという和名の由来は、平安時代末期にさかのぼる。この木の北方約四〇〇メートルの地に、相良寺という寺があったのだが、源氏の武将緒方三郎惟栄が、平家討伐のために火をかけた。その際、ご本尊の千手観音が、この木のつるに飛び移って、無事だったという伝説から、こう呼ばれるようになった。
現在、このアイラトビカヅラは手厚く保護され、開花期には多くの人がこの花を見に訪れている。
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