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疾患解説

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鉄欠乏性貧血【てつけつぼうせいひんけつ】
Iron Deficiency Anemia

[受診科] 血液内科
受診のコツ

【概説 】
 血液は赤色ですが、これは赤血球の中にあるヘモグロビンというタンパクのためです。ヘモグロビンは酸素を運搬する機能をもつタンパクであり、その合成には鉄分を必要とします。血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態を貧血といいますが、鉄欠乏性貧血は貧血の中でも最も頻度の高い疾患です。鉄の吸収が不十分な場合や、消化管や月経など出血により体内の鉄分が低下した場合、鉄欠乏性貧血が発症し、とくに妊娠可能な女性の約30%は鉄欠乏性貧血を示すとされています。一般的には鉄分の補給により回復する予後良好な疾患ですが、時には鉄欠乏状態になる原因の究明、治療が必要となります。
【症状 】
 体内の各部分へ酸素を運搬するヘモグロビンの欠乏があるため、鉄欠乏性貧血の症状として、全身倦怠(けんたい)感、いらいら感、めまい、耳鳴り、動悸、息切れ、頻脈(ひんみゃく)などが起きます。一方、長期間に徐々に進行してきた鉄欠乏貧血の場合、正常人の50%程度の貧血でもまったく症状を訴えないこともよくあります。
 重篤(じゅうとく)な症例の場合、痛みを伴う口角炎、舌炎、また食道粘膜の萎縮のため嚥下障害(えんげしょうがい)が起きる場合があります。また、まれですが、爪が薄くなり、そり返るさじ状爪も起きます。またこの貧血に特有な症状として異食症異臭症も起きることが報告されています。
【診断 】
 赤血球数はあまり低下しませんが、ヘモグロビン合成が低下するために、赤血球1個あたりのヘモグロビン量が低下し、また赤血球が小さくなります。そこで、血液検査を行うと、いわゆる小球性低色素性貧血を認めます。白血球数は正常ですが、しばしば血小板が増加します。血液塗沫標本を顕微鏡で観察すると、赤血球は小型で、大小不同、その他の変形があります。血清鉄、また組織の鉄分を示すフェリチンが低下し、反対に不飽和鉄結合能(UIBC)が増加します。UIBCの増加は、体内の鉄分の不足により少しでも鉄分を有効利用しようとして鉄と結合するトランスフェリンの合成が高まるためです。小球性低色素性貧血は、慢性疾患に伴う貧血、まれな疾患ですが、ヘモグロビン異常症のサラセミアとか、鉄芽球(てつがきゅう)性貧血でも起きますが、一般検査および上記のような鉄代謝を測定することにより鑑別可能です。
【標準治療 】
 鉄欠乏性貧血の治療は、その原因を明らかにして治療すること、および欠乏している鉄分を補うことが必要です。消化器症状のない、月経過多が存在する女性の場合は、ほとんどの場合、貧血の原因は自明であり、鉄剤の投与のみですみます。しかし、男性や最近貧血になった経過が明らかな閉経後の女性の場合、鉄欠乏にいたった原因を究明することが急務です。胃潰瘍などの消化器潰瘍、痔、また直腸ガンからの病的出血が大事な鑑別診断となります。
●標準治療例
 ・フェログラデュメット(鉄分105mg)  1回1錠1日1回
 ・フェロミア(鉄分50mg)  1回1錠1日2回
 ・スローフィー(鉄分50mg)  1回1錠1日2回
 経口鉄剤には、硫酸鉄、フマル鉄、クエン酸鉄などがあります。鉄剤服用後、数週間から1、2カ月で貧血は改善しますが、その後も2カ月程度鉄剤の服用を続けるべきです。鉄剤を服用すると便が黒色になりますが、これは吸収されない鉄分の色で副作用ではありません。鉄分はもともと食物に含まれているのもですが、鉄剤中の鉄含有量が多いため、副作用を起こすこともあります。最も多い副作用は消化器症状で、食欲不振、吐きけ、下痢、便秘などが主な症状です。ほとんどの場合、鉄剤を変更することで回復しますが、個人により合う鉄剤が異なるようです。以前は食前に投与すべきであるとか、タンニン酸が鉄の吸収を妨げるためお茶を飲んではいけないなどいわれていましたが、現在これらは注意事項には当たらず、鉄剤は一般の薬と同様、食後に服用します。またお茶、コーヒーなど嗜好物の制限もありません。
●特殊治療例
 注射薬(点滴)
 ・フェジン(鉄分40mg)  1アンプルを生食100mLに加え、点滴
 ・ブルタール(鉄分40mg)  1アンプルを生食100mLに加え、点滴
 いずれも 週1〜2回。
 胃腸障害などで経口剤の服用が困難な場合、また胃切除、吸収不良症候群などで鉄分の吸収が悪い場合、大量出血で急速に鉄分を補う必要がある場合などに、静脈投与することもあります。
【予後 】
 鉄欠乏性貧血は、いわゆる栄養欠乏と同じで、鉄分の補給さえ十分に行えば回復する疾患です。出血の原因が持続する場合は、鉄欠乏性貧血が再発することもあり、この場合は原疾患をコントロールすることが必要です。
【生活上の注意 】
 食事の中に含まれる鉄分は少なく、鉄欠乏性貧血の治療には適しません。明らかな鉄欠乏性貧血の場合は、鉄剤の服用が必要です。貧血の再発を防ぐためには、普段から鉄分に富む食事、すなわちレバー、魚、肉など吸収されやすい鉄分を摂取すべきです。また酢の物、ビタミンCに富む食事は鉄分の吸収をよくします。
このページの執筆医師【尾崎由基男

【出典】 寺下謙三/日本医療企画
標準治療(第3版)