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疾患解説

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膵嚢胞と嚢胞性腫瘍【すいのうほうとのうほうせいしゅよう】
Pancreatic Cyst , Cystic Tumor of the Pancreas

[受診科] 消化器
受診のコツ

【概説 】
 一般的に液体が貯まって袋状になったものを嚢胞(のうほう)と呼んでいます。膵臓がもともと分泌している膵液が貯まったものを膵嚢胞と呼び、同じように見えても腫瘍に分泌能があり、それが貯まって袋状に見えるものが嚢胞性腫瘍です。前者の膵嚢胞にも2種類あって、多くは1cm以下で(時に多発)加齢とともに出現する膵液の貯まりである貯留嚢胞と、激しい急性膵炎後に膵外に破綻した膵液が貯まった偽嚢胞(ぎのうほう)があります。偽嚢胞が炎症を起こした場合以外は、通常は症状もなく治療の対象になりません。
 膵嚢胞性腫瘍は最近になってその疾患概念が整理され、また治療方針も見当がついてきた領域です。以下には「膵嚢胞性腫瘍」につき述べます。まず分泌される液体により大きく漿液(しょうえき)性(Serous cystic tumor:SCT)と粘液性に分けられます。漿液性は嚢胞といっても微小な嚢胞で海綿状の構造からなります。粘液性にはさらにブドウの房状の形を示す膵管内乳頭状粘液性腫瘍(Intraductal papillary mucinous tumor:IPMT)と、より大型でその中に隔壁(かくへき)様の構造を持つ粘液性嚢胞性腫瘍(Mucinos cystic tumor:MCT)があります。どれも形と構造が違うので、診断上、画像の違いから区別できるようになってきました。しかし最も重要な違いはいずれも良性腫瘍とはいえ、漿液性のもののガン化は極めてまれですが、粘液性はガン化傾向を持つ点です。ただしガン化といっても普通にある膵ガンに比べ悪性度が低い、すなわち膵ガンと質がまったく違って、取ればほとんどが治ることもわかってきました。このことから手術も必要最小限のものが求められるようになり、膵縮小手術の開発のきっかけともなりました。したがって手術をするべきかどうかを含め、治療方針が最近になって議論できるようになった領域でもあります。
【症状 】
 漿液性、粘液性ともに、10cm以上の巨大にならない限りはほとんど症状を呈しません。まれにIPMTから排出された粘液の粘稠度のために、膵炎症状(腹痛、背部痛)を起こすことがあります。粘液性で悪性化、巨大化して胆管に及んで黄疸(おうだん)を呈することもありますが、画像診断で早めに発見される現代ではまれです。
【診断 】
 腫瘍マーカーはあまり関連しません。超音波検査(US)、CT、MRIなどの画像検査が中心となります。概説で述べた腫瘍の構造が画像上の鑑別点となります。すなわちSCTは一見実質性の腫瘍にみえるも、微細な嚢胞を内部に認める。IPMTはブドウの房状の構造。MCTは1つの嚢胞か、その中に隔壁様の構造をもつなどの典型的な像を呈します。ただし、いずれもその中間的な像で診断に迷うこともあります。IPMTはその定義通り、膵管内での増生であるので主膵管と交通性があり、粘液が主膵管内に排出され、その量が多いと全体的な拡張を呈します。逆にこの主膵管拡張が腫瘍発見の契機になることも珍しくありません。なかでも粘液性のものがガン化しているかどうかの所見については、その予後を含め、まだ一定の見解が得られていないのが現状です。まず3cm以上のものはその傾向があるとする意見があります。もっと詳しく内視鏡的超音波検査(EUS)で、嚢胞内部に数mm以上の実質性の腫瘍像があればガン化を疑う、あるいは主膵管に病巣の中心があるタイプはガン化しやすいなどともいわれています。基本的にはガン化例ほど粘液の排出量が多い傾向がみられるので、これらを総合して手術適応を判断します。
【標準治療 】
 まずは最新知識をもった専門家に正しく診断されることが大切です。SCTは良性ですので、手術は不要で経過観察で十分です。まれに主膵管の拡張を伴ったり、糖尿病と関連することもあります。巨大化したら手術がすすめられます。
 IPMTは成長が緩やかであることが多いので、現在の年齢、すなわち生命予後と今後のガン化の可能性を天秤にかけて判断する必要があります。3cm以上で粘液の排出量が多い場合、あるいは実質腫瘍像が明らかにみられる場合に手術を考慮します。MCTはIPMTより悪性化傾向が高いとされており、数cm以上のものは手術適応となります。いずれにしろ、人間ドックでみつかるような小病変は基本的に年単位の経過観察で良いことになります。
 膵臓の場合はその場所によって手術法が異なりますが、この腫瘍ではたとえ悪性でもそのものが取れていれば、多くは大丈夫であることがわかってきたために必要最小限の手術を基本とします。膵臓の尾部では、もともと尾部(あるいは脾臓も)を取るだけで同じです。体部は体部のみを取って尾部を残し再建する工夫がされています。頭部病変がとくに問題となり、通常は膵頭十二指腸切除になるのを何とか小さく切除する術式が種々開発されました(膵鈎部切除、腹側膵切除、膵頭部切除など)。いずれもなるべく機能を温存しようとする方法です。実際には大きさや位置により選択の制限がありますが、手術適応を含め詳しい検討が求められます。
【予後 】
 SCTは良性ですので予後は良好ですが、腫瘍である限りは徐々に大きくなることを理解しておく必要があります。だいたい倍加時間(doubling time:細胞数が2倍になるまでの時間)が4〜5年ともいわれているので、10年後には倍近くになる可能性があります。2〜3年ごとには検査をして経過を追うべきでしょう。
 IPMT、MCTともに、所見と年齢を勘案しながら経過を追うのが原則です。手術成績は本体が切除できていれば、ほぼ問題となるほどの再発に至ることはまれで、良好な予後が得られています。
【生活上の注意 】
 腫瘍とはいえ、発育も緩慢で症状もめったに出ないので、とくに生活制限はありません。しかし、主膵管の拡張を伴う場合には糖尿病発症の可能性があり、アルコール多飲は避けるべきです。
このページの執筆医師【渡辺五朗

【出典】 寺下謙三/日本医療企画
標準治療(第3版)