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疾患解説

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過敏性腸症候群【かびんせいちょうしょうこうぐん】
Irritable Bowel Syndrome

[受診科] 消化器
受診のコツ

【概説 】
 腸の粘膜に炎症やポリープ・腫瘍(しゅよう)など(器質〈きしつ〉的病変という)がなく、ただ腸の働きが強くなりすぎることによって腹痛や便通異常(便秘、下痢、便秘・下痢を繰り返す交替型)などといった症状が現れる病気です。つまり、腸自体が悪いのではなく、それ以外の何らかの原因で腸を動かす神経が刺激されるために、腸の運動が盛んになり腹痛などが起こるのです。
 原因としては、まずその人の性格が問題となります。精神的に弱い人にストレスやプレッシャーがかかると腸が敏感に反応して症状を起こします。私も高校や大学受験の時よく悩まされました。受験前日の試験場の下調べの時は、まずトイレの場所を確認したものです。また、自律神経の不安定な人にも同じことがいえるようです。他の原因としては、薬や食事(内容だけではなく時間的なこと、俗にいう“早食い”)などがあげられます。以上の理由からこの病気は消化器心身症の代表といえるでしょう。
【症状 】
 下痢型では大腸全体は細かくけいれんして筒状になっており、胃・粘膜反射が起こると急速に腸内容物が移動し、S状(えすじょう)結腸(直腸の手前)で保持できずに下痢になります。糞便は少量ずつで何度ももよおします。一方、便秘型ではS状結腸の運動が亢進(こうしん)しており(けいれん性便秘)、腸内容物の移動が妨げられます。糞便はウサギの糞のような兎糞状を示します。
1)消化器症状
 腸のけいれんによる腹痛で、とくに左の下腹部に多いようですが一定はしていません。腸の内容物の移動が速い場合には下痢になり、反対に腸のけいれんのために内容物の移動が妨げられると便秘になります。この時出た便は、水分吸収が過度に起こるためウサギの糞のようにコロコロしています。この2つの症状が繰り返し起こることもあります。胃や腸内にガスが異常にたまってお腹が張ったり、げっぷが出たり、吐きけや腹鳴(お腹がゴロゴロとなること)が強く現れたりします。
2)全身症状
・精神神経症状
 不安感・不眠・無気力・緊張感・全身倦怠感などの精神症状が必ずといっていいほど伴っています。
自律神経失調症
 胸がドキドキする・手足が冷たい・発汗・顔面紅潮・肩こり・頭痛などがあります。この病気は、最近増加傾向にあり、働きざかりの青・実年層に多いようです。主にデスクワークをする人や、また農村よりも都会のほうに多くみられるという報告もあります。男女別にみると女性に多いようです。
【診断 】
 まず、このような症状を引き起こすような器質的変化がないことを確かめなければいけません。それには胃透視・注腸検査・胃・大腸内視鏡・腹部超音波検査・腹部CT検査などを行います。これらの検査で異常がなければ特徴的な症状(腹痛、便通異常など)を確認し、要因となる自律神経失調症や精神神経症状の有無、精神的ストレスの関与を問診などで確認して診断します。注腸検査や大腸内視鏡検査で大腸の働きが活発化していることを確かめる場合もあります。他に大腸の内部の圧を測定したり、性格・心理テストを行って診断の決め手とすることもあります。
【標準治療 】
 まず、糞便の物理的性質を調節するため、便の水分バランスを調整する作用をもつ薬剤(コロネル、ポリフル)が使用され、それに腹痛や便秘がある時は、その原因である腸のけいれんや緊張を取り除く薬剤(抗コリン剤)や、便秘に対しての軽い下剤(強い下剤や浣腸はかえって強い刺激となって腸の緊張が増す危険がある)、整腸剤、腸管運動機能調整剤が有効です。自律神経失調症が認められる時は自律神経調整剤を、精神症状の強い場合は抗不安剤や抗うつ剤、睡眠剤などが併用されることが多いようです。次に、ライフスタイルの改善を考えます。環境に問題があればできるかぎり調整します。また、便秘が主症状の場合は高繊維質のものを食べるようにするのがよいようです。
【予防 】
 規則正しい食事(ゆっくりと時間をかけて腹8分目)と排便習慣をつけることです。患者さんにはそういうのですが、そういう私たち外科医が昼食にかける時間といえば4〜5分ぐらいで、食べ終わればすぐに仕事です。「早食い、早便も外科医の仕事のうち」とよく先輩にいわれたものです。なんて体に悪い仕事でしょう。でも、実際そういう仕事の人が多いのではないでしょうか。お互いできるかぎり規則正しく食事をとるように心がけましょう。また、この病気の原因のうち最も問題なのは緊張感やストレスですが、それらをなくすことは難しいと思います。それらを発散させる方法を各自で見つけて下さい。
【生活上の注意 】
 この病気の患者さんを長期間追跡した調査では、症状が変わらないという患者さんが多いようです。現在の世の中を生きていくにはストレスもなく緊張感もなくということは不可能なことです。つまり、対症療法(病気の原因に対する治療ではなく、その病気の1つ1つの症状をなくすための治療)で一旦症状は軽くなりますが、また近い将来同じことが起こってくる可能性が非常に高い病気といえます。したがって、あまり物事を気にしないでおおらかに生きることが、何よりの治療法といえるのです。
 実際の話ですが、私の患者さんの息子さんで大学入試を控え、この疾患に悩まされていたのですが、この4月、無事大学に合格されたのと同時にこれらの症状がまったく嘘のようになくなったそうです。
このページの執筆医師【寺下史朗

【出典】 寺下謙三/日本医療企画
標準治療(第3版)