全辞書一括検索 JLogos

疾患解説

トップ各診療科から検索消化器

胃ガン【いがん】
Gastric Cancer

[受診科] 消化器
受診のコツ
 ■画像(2) ■画像(4)
【概説 】
 胃にできる悪性腫瘍のうち、胃の内腔表面をおおう粘膜から生じるものを胃ガンと呼びます。進行とともに胃壁深くガン組織が浸透していき、やがてリンパ節、肝、腹膜などに転移します。そこから全身に広がり最終的に患者さんの生命を奪います。原因はまだ解明されていませんが、ヘリコバクターピロリ菌、喫煙、高塩分食が関係していると考えられています。その発生数は年々減少していますが、依然として男性では最も多く、女性でも乳ガン、大腸ガンについで3番目に多いガンです。胃ガン検診や内視鏡検査の普及により、早期に発見されるものが増えるとともに、内視鏡的治療や外科手術の技術的進歩によりその死亡率は年々低下しています。
【症状 】
 胃痛、嘔気(おうき)、膨満感などの上腹部症状がみられます。しかし、胃ガンに特有の症状はなく、症状だけでは胃炎や胃潰瘍との区別は困難です。市販の胃腸薬で軽快することも少なくないので、そのために発見が遅れることもあります。ガンが進行すると、ガン性潰瘍から出血しやすくなり、吐血(とけつ)や黒色便などが出現します。貧血による動悸、息切れ、めまいあるいは体重減少といった全身症状をきっかけに発見されることもあります。胃の出口(幽門〈ゆうもん〉)付近に大きな進行ガンができると食物の通過障害が起きて、嘔吐(おうと)を繰り返すことがあります。上腹部に腫瘤(しゅりゅう)を触れることもあります。スキルス胃ガンは、背中の方向に広がりやすいので、腰痛をきっかけに発見されることがあります。
【診断 】
 胃ガンを見つける検査には、バリウムを使った胃レントゲン検査と胃内視鏡検査があります。最終的に、胃内視鏡で病変の一部を採取して顕微鏡による病理検査(生検)を行い、ガン細胞を証明することで診断します。胃ガンの診断がついたら、ガンがどこまで広がっているか(転移の有無)をCTやMRIで調べ、治療方針を決定します。
 胃ガンは胃内腔表面を被う粘膜から発生します(図1:胃ガンの深達度と転移)。まず粘膜層を水平方向に広がったガンは、やがて粘膜下層に浸潤します。浸潤が粘膜下層までにとどまるものを早期胃ガンと呼びます。さらに固有筋層よりも深く浸潤したガンを進行胃ガンと呼びます。胃ガンの浸潤した深さを深達度といいます。
 胃ガンの転移は、主にリンパ節転移、肝転移、腹膜転移の3通りがあります(図1:胃ガンの深達度と転移)。リンパ節転移は胃近傍のリンパ節(第1群)から膵付近(第2群)を経て、腹部大動脈周囲リンパ節へと段階的に広がります。転移があったとしても、第2群リンパ節までならば、手術で切除することにより治る可能性があります。しかし、大動脈周囲リンパ節転移、肝転移、腹膜転移を来した胃ガンを治すことは困難です。
【標準治療 】
 胃ガン治療の原則は、内視鏡あるいは手術による病変の完全切除です。抗ガン剤治療で胃ガンを完治させることはできません。したがって手術で切除できないような転移を伴った場合は、抗ガン剤による延命治療となります。現在、わが国の胃ガン治療は2001年に日本胃癌学会が作成した「胃癌治療ガイドライン」(2004年と2010年に改訂)に沿って行われています。
1)内視鏡的粘膜切除
 粘膜にとどまる早期胃ガンを内視鏡を用いて切除します。小さな病変をワイヤーで焼切る内視鏡的粘膜切除(EMR)と、比較的広い病変でも電気メスで剥がし取ることができる内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。胃壁の外側にあるリンパ節を切除する(リンパ節廓清〈かくせい〉)ことはできません。したがって、リンパ節転移の危険性が限りなく0%に近い病変、具体的には2cm以下の潰瘍を伴わない分化型(高分化および中分化)腺ガンが対象になります。低分化腺ガン(印環細胞ガンを含む)は粘膜にとどまっていてもリンパ節に転移する可能性があるので原則適応外です。
2)手術治療
 a)定型手術
 明らかなリンパ節転移を伴う早期胃ガンと進行ガンが対象となります。胃中下部のガンに対しては幽門側2/3以上の胃切除、胃上部や広範囲のガンに対しては胃全摘が行われます(図2:胃切除範囲〈a〉)。同時に第2群までのリンパ節廓清を行います。
 b)縮小手術
 内視鏡的治療や定型手術の適応にならない早期胃ガンが対象です。胃切除範囲やリンパ節廓清程度が定型手術よりも小さい手術です。胃の上部だけを切除する噴門(ふんもん)側胃切除、胃の中部だけを切除する幽門保存胃切除などが含まれます(図2:胃切除範囲〈b〉)。リンパ節廓清が第2群より小さい手術も含まれます。
 c)腹腔鏡手術
 定型手術や縮小手術を腹腔鏡というビデオスコープを用いて行う傷の小さな手術です。まだ臨床研究段階ですが、2002年に保険収載されて以降、早期胃ガンを対象として広く普及しています。
3)再建方法
 胃全摘後の再建は約90%の病院がルーワイ法を採用しています(図3:再建法〈a〉)。ルーワイ法は、食道と空腸を吻合(ふんごう)し、十二指腸液を吻合の40cm下流に合流させる再建法です。幽門側胃切除後の再建は多くの病院がビルロートI法(図3:再建法〈b〉)を採用していますが、最近ルーワイ法(図3:再建法〈c〉)で再建する施設も増えています。ビルロートI法に比べ、縫合不全が少なく、十二指腸液の逆流による残胃炎も少ないといった安全性、術後のQOL面で優れているといわれています。
5)補助化学療法
 手術によってガンを完全に切除したあと、再発予防のために行われる抗ガン剤治療を補助化学療法といいます。ステージ2またはステージ3の胃ガンでは、TS-1(ティーエスワン)という経口抗ガン剤を1年間服用することで再発が減ることが証明されています。副作用がありますので、医師の指示に従って注意深く治療を継続する必要があります。
6)切除不能あるいは再発ガンに対する化学療法
 手術で切除できないほど進行したガンや手術後に再発したガンに対しては、抗ガン剤による延命治療が行われます。無治療で3〜4カ月程度の余命が、抗ガン剤治療をすることにより11〜13カ月に延命されます。現在、胃ガンに対する初期治療として、TS-1とシスプラチンの組み合わせによる化学療法が第1選択となっています。その他、5-FU(フルオロウラシル)、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセルなどの抗ガン剤が胃ガンに対して使用されます。近年、分子標的治療薬の開発、研究が進み、HER2遺伝子の増幅がみられるタイプの胃ガン(HER2陽性胃ガン)に対しては、TS-1とシスプラチンに加えてトラスツズマブが使用されます。
【予後 】
 胃ガンの総合的な進行度(ステージ)は、深達度、リンパ節転移の個数および遠隔転移の有無によりI〜IVの4段階に分けられます。ステージ別の胃ガン手術後5年生存率は、ステージIが91%、IIが78%、IIIが55%、IVが14%です。
【生活上の注意 】
1)予防
 胃ガンの発生には、へリコバクター・ピロリ菌による慢性の炎症が重要な役割を演じていると考えられています。塩分濃度の高い食物や喫煙が、これを助長させます。ピロリ菌の感染は幼児期に起こりますが、現在は減少しています。
2)早期発見
 40歳を超えたら、人間ドックあるいは胃ガン検診を定期的に受けるようにして下さい。40歳未満の方でも、上腹部症状が続くときは、一度胃内視鏡検査を受けることをお勧めします。
3)手術後の後遺障害
[1]貧血
 胃全摘後は鉄やビタミンB12の吸収が悪くなり貧血になることがあります。定期的な採血チェックが必要です。
[2]ダンピング症候群
 早期ダンピング症状と後期ダンピング症状の2種類に分類されます。早期ダンピング症状は、糖質が急速に十二指腸または空腸に流入し血管内脱水や様々なホルモンの分泌が引き起こされるために、食事直後から30分以内に動悸、めまい、眠気、顔面紅潮などが生じます。後期ダンピング症状は食物の急速な十二指腸や空腸への流入により食後血糖が急激に上昇し、これに反応してインスリンが過剰分泌されるため、食後2〜3時間後にみられる低血糖症状です。冷や汗、失神などの症状がみられます。よく噛んで、ゆっくり時間をかけて食事するように心がけて下さい。
[3]癒着性腸閉塞
 小腸が、腸あるいは開腹創にくっついて(癒着して)、曲がったり、捻じれたりすることで閉塞することがあります。おならが出なくなり、お腹がはって、繰り返し嘔吐するのが特徴です。すぐに医療機関で受診して下さい。
このページの執筆医師【阪眞 佐野武

【関連コラム】
内視鏡(カメラ/ファイバースコープ)
腹腔鏡下手術(腹腔鏡下胆嚢摘出術〈Lap-C、ラパコレ〉)
ガンの放射線治療
放射線検査
CT検査(コンピュータによる横断断層撮影法)
PET検査(ペット:ポジトロン放出断層撮影法)
MRI(磁気共鳴断層撮影装置)

【出典】 寺下謙三/日本医療企画
標準治療(第3版)