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疾患解説

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食道炎・食道潰瘍【しょくどうえん・しょくどうかいよう】
Esophagitis・Esophageal Ulcer

[受診科] 消化器
受診のコツ

【概説 】
 何らかの原因で食道に生じた炎症のうち、軽度のもの(びらん)を食道炎、さらに進行し粘膜が深く削れたものを食道潰瘍(かいよう)といいます。成因として、胃液の食道内への逆流、内服した薬の食道での停滞、洗剤などを誤って飲んだことによる化学的な粘膜障害、細菌、ウイルス、カビなどの感染による炎症、放射線治療後の炎症などがあります。
 日常の診察で多くみられるのは、胃酸を含む胃液が食道へ逆流することにより、食道と胃の境目(食道胃接合部)に近い食道粘膜が障害をうけ発生する「逆流性食道炎」です。
 逆流性食道炎は、以前は欧米諸国に多いとされていましたが、最近、日本でも生活様式の欧米化とともに増加傾向にあり、上部消化管内視鏡検査を行った人の10〜15%に認められています。
 食道下部の下部食道括約部は、ものを飲み込むとき以外は閉鎖し酸性の胃内容物が食道に逆流するのを防いでいます。しかし、加齢などでこの機能の働きが悪くなったり、過食による胃壁の伸展や高脂肪食品摂取の刺激によっても一時的に括約部は緩み逆流が起こります。とくに、食道の外側にある横隔膜(おうかくまく)の筋肉が緩み、食道胃接合部が上にずれてしまう食道裂孔ヘルニアでは横隔膜の圧迫による逆流防止機構がなくなり高率に逆流が起こります。
 このような胃酸を含んだ胃内容物が、食道へ逆流することによって起こるいろいろな病態を胃食道逆流症(GERD)といいます。そのうち内視鏡検査で下部食道にびらん発赤などの炎症像が確認できるものが逆流性食道炎で、胸焼けや就寝時の咳などの逆流を疑わせる症状があっても内視鏡検査では食道炎の所見がみられないものは非びらん性逆流症(NERD)といわれます。
【症状 】
 食道炎で通常よくみられる症状は、みぞおち(心窩〈しんか〉部)から胸の中央にかけて込み上げるように熱くなる胸焼けです。食後に起こりやすく、とくに食べ過ぎた後や油っこい物を食べた後の胸焼けが逆流性食道炎では特徴的です。その他、口の中へのすっぱい物の込み上げ、胸のつかえ感、胸痛などがみられます。食道炎以外の逆流症の症状としては、のどの違和感、慢性的な咳、中耳炎などがみられます。
【診断 】
 上記の症状から逆流性食道炎を疑いますが、食道ガンや狭心症などの心疾患でも同様の症状を起こすことがありますので、内視鏡検査は欠くことのできない診断法です。
 内視鏡所見は、炎症の程度により粘膜の色が赤くなったり、白色に変色する軽度のものからびらんや潰瘍を形成するもの、狭窄(きょうさく)をきたす重症のものまで様々です。これらの変化は食道の下部に強く起こり上部に向かって軽くなっていきます。
 内視鏡検査で上記の所見があれば診断は可能ですが、自覚症状があっても内視鏡では明らかな所見がみられない場合があります。このようなとき、食道内への酸の逆流を確認するため2mm程度の細い電線(pH〈ペーハー〉センサー)を鼻から食道下部まで入れ食道内のpHをモニターして調べることがあります。
【標準治療 】
 薬や化学物質による食道炎では、原因となった薬剤を除去し、食道を刺激しないよう絶食とし、その後は逆流性食道炎と同じ治療を行います。
 逆流性食道炎の治療の基本は、食道内に酸が逆流し粘膜を刺激するのを防止することです。それには、胃酸分泌を抑える方法と、逆流そのものを防ぐ方法があります。初期治療は、薬により胃酸分泌を抑える薬物療法です。その後、徐々に薬を減量し維持療法とします。難治性で再発を繰り返すものでは腹腔鏡での逆流防止手術が行われます。最近では、まだ少数例ですが内視鏡により食道や胃の内面から緩んだ部分を狭くして、逆流を防ぐ治療法も行われています。また、深い食道潰瘍となったものでは、治る過程で引きつれができ食道が狭くなることがあります。このような時、食物の通過が悪くなれば内視鏡による拡張の治療が行われます。
●薬物治療の実際
[1]胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害剤)を8週間使用します。
 タケプロンOD(30mg)  1回1錠1日1回(朝食後)
 または、パリエット(20mgまたは10mg)  1錠
 または、オメプラール(20mg)  1錠
 または、ネキシウム(20mg)  1回1カプセル1日1回(朝食後)
[2]8週後に症状や内視鏡所見の改善を見て半量とします。
 タケプロンOD(15mg)  1回1錠1日1回(朝食後)
 または、パリエット(10mg)  1錠
 または、オメプラール(10mg)  1錠
[3]そのまま[2]を継続する場合と、
[4]8週後に他の種類の胃酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬)に変更することがあります。
 ガスター(20mg)  1回1錠1日2回(朝夕食後)
 または、ザンタック(150mg)  1回1錠1日2回(朝夕食後)
[5]さらに8週後に症状が安定していれば半量とします。
 ガスター(10mg)  1回1錠1日2回(朝夕食後)
 または、ザンタック(75mg)  1回1錠1日2回(朝夕食後)
[6]症状により、[2][4][5]のいずれかの方法で維持した後、薬の内服を中止します。
[7]これらの胃酸分泌抑制薬の治療に、食道胃の動きを活発にして胃液や食べ物の排出を促すため消化管運動促進薬を併用することがあります。
 ガスモチン(5mg)  1回1錠1日3回(毎食前または食後)
[8]炎症の起こった食道粘膜を保護する粘膜保護薬も、単独または併用で使用されます。
 アルロイドG  1回20〜60mL 1日4回(毎食前・眠前)
 または、ネキシウム(10mg)  1回1カプセル1日1回(朝食後)
【予後 】
 ほとんどが薬に反応し症状は軽快します。しかし、治療の中断によって再発を起こすものも少なくありません。そのため長期間の薬物療法が必要となることが多く、生活上の注意の項に記したような生活習慣の改善も重要です。
 また、胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害剤)はどの薬剤もほぼ同等の効果がみられますが、人により薬剤間での効果が異なります。そのため、ひとつの薬剤の効き目が悪いとき他剤に変更すると良い場合があります。
【生活上の注意 】
 薬物治療で症状の改善がみられても、逆流を起こさないために以下のような生活習慣の改善が必要です。てんぷら、フライなどの高脂肪食、ケーキ、饅頭などの甘いもの、柑橘類など胸焼けを起こしやすい食べ物はできるだけ避け、暴飲暴食、早食い、すすり飲みは胃を大きく膨張させ逆流の原因となりますのでやめるようにしましょう。食後はすぐ横にならないようにし、寝る前の2時間くらいは食べないことも大切です。また、逆流の起こりやすい人は、布団の下に座布団などを入れ上半身が高くなるようにして寝ると夜間の逆流を防ぐことができます。
このページの執筆医師【長谷川俊二

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【出典】 寺下謙三/日本医療企画
標準治療(第3版)