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疾患解説

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弁膜症外科手術【べんまくしょうげかしゅじゅつ】

[受診科] 心臓・血管
受診のコツ

【概説 】
 心臓弁膜症とは心臓弁が正しく機能しなくなった状態であり、弁が硬く狭くなった状態を狭窄症、きちっと閉じないで逆流を生じた状態を閉鎖不全症といいます。多くの場合、問題となるのは左心室の入口と出口にある僧帽(そうぼう)弁と大動脈弁で、右心室の入口と出口にある三尖(さんせん)弁と肺動脈弁が問題となるのはまれです。弁をなおす基本的な治療は手術しかありませんが、弁が悪いからすぐ手術をするということではありません。大切なことは本当に手術が必要かどうかの手術適応を正しく決めることと、どの時点で手術を行うことが最も良いかをそれぞれの患者さんについて検討することです。これには心臓だけでなく、年齢や心臓以外の病気の有無、また、社会的背景も考慮することが大切です。また、手術を行う場合でも自分の弁を修復する弁形成手術を行うか、人工弁に取り換えてしまうのか、さらに人工弁はどの弁が最も患者さんに適しているかなど、いくつかの選択肢があります。対象となる病気は大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症などです。
【標準治療 】
・手術適応
 手術が必要かどうかは、狭窄(きょうさく)や逆流の程度、心臓の大きさや心機能により決められます。これに関し2007年にわが国におけるガイドラインが改訂されました。これは疾患ごとに、手術の有効性と多くの医者の見解が一致しているかどうかにより心臓の状態を評価したものです。これに基づき、手術適応の決定を行った場合、標準的な治療が行われると考えられます。また、手術を勧められて迷われた場合、セカンド・オピニオンを求めるのもよいかと思います。
・弁形成手術
 弁形成手術とは壊れた自分の弁を修復する手術で、術者の経験と技術に負うところの多い手術です。人工弁(機械弁)置換術ではワーファリンという血を固まりにくくする薬を一生飲み続けなくてはなりませんが、自分の弁が修復できればその必要がありません。また、自分の弁を支えている腱索という支持組織を切り離す必要がないため、心臓の動く機能も弁置換に比べ温存されます。このため術後のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)は弁置換に比べ良好です。僧帽弁狭窄症の軽い例と、僧帽弁閉鎖不全症の90%ぐらいに弁形成が可能です。ただし、簡単な病変と複雑な病変があり、高齢者や心臓以外に重篤(じゅうとく)な病気を持っている方が複雑病変で手術時間を短くしたい場合には、弁形成が可能でも弁置換をする場合があります。一方、大動脈弁での弁形成は難しい場合が多く、遠隔成績も明確でないため、適応は限定されます。
・弁置換手術
 壊れた弁を切除し人工弁を移植する手術です。人工弁には、機械弁と生体弁(図:現在使用されている人工弁)があり、それぞれに長所、短所があります。どちらを選択するかにより術後の患者さんのQOLとライフスタイルが大きく変わるので医師だけの考えだけでなく、正しい情報を患者さんとご家族に伝え、インフォームド・コンセントを行った上で決定することが重要です。
 機械弁はパイロリックカーボンという材質でできていて耐久性に優れており、一生涯壊れることはなく、再手術を必要とすることはほとんどありません。問題は弁のところで血液が凝固して血栓をつくることがあり、これが体に飛んでいくと脳梗塞などを起こす可能性があることです。これを予防するためにワーファリンを一生飲み続ける必要があります。ワーファリンは効きすぎると出血を起こしたり、血が止まりにくくなるので、2カ月に1度ぐらい採血をして効きぐあいをチェックしなくてはなりません。
 生体弁は生物から採取したもので、ブタの大動脈弁や牛の心膜を薬品で処理したものが使われています。長所は機械弁に比べ血栓ができにくいことで、ワーファリンは多くの場合術後3カ月で中止します。問題は耐久性にあります。装着後、年を経るにつれて弁の変性や石灰化を起こし硬くなり、時には亀裂を生じたりします。したがって、10年から20年経つと再手術が必要です。弁を植え込む場所や、年齢によっても耐久性が異なり、僧帽弁よりも大動脈弁のほうが、若年者よりも高齢者のほうがより長い耐久性が期待できます。日本では現在、大動脈弁に67%の患者さんに、僧帽弁では43%の患者さんに生体弁が使用されるようになりました。他に特殊な場合として、亡くなられた方から提供していただいた同種大動脈弁(ホモグラフト)を使用する場合もあります。
 生体弁の適応は、[1]本人が希望する方、[2]若い女性:ワーファリンによる妊娠、出産への弊害があるため、[3]ワーファリンによる抗凝固療法が難しい場合:血液疾患、高度の肝機能障害などで凝固能の異常がある場合、規則正しく薬を内服できない患者さん、定期的外来通院が難しい場合など、[4]高齢者などです。僧帽弁に関しては、心房細動というという不整脈を合併する場合は生体弁を植え込んでもワーファリンの内服が必要な場合があり、高齢者でも機械弁が選択される場合があります。
・メイズ(maze)手術
 心房細動を治す手術で、心房細動合併例では弁膜症の手術と同時に行うかを検討する必要があります。弁形成や生体弁による弁置換を行っても、心房細動が残存すればワーファリン内服が推奨されるからです。この手術で心房細動が治る可能性は70〜80%ぐらいです。また、手術時間が長くなるので高齢者や弁膜症自体の手術リスクの高い方では、適応は慎重に決定すべきです。
【予後 】
 手術の危険性に関して、最新の日本胸部外科学会のレジストリー(2010年)によると、日本全体での平均は入院死亡率が弁形成で2.0%、弁置換で3.8%、再手術で7.5%です。僧帽弁形成術後の再手術回避率は10年で90%ぐらいです。機械弁による弁置換後の再手術はほとんどありませんが、血栓塞栓症はワーファリンを内服していても1年に1%ぐらいの方が起こし、10年での回避率は90%ぐらいです。現在市販されている生体弁による大動脈弁置換術後の遠隔成績は、70歳以上の方では15年で95%の方が弁の破壊による再手術を免れておりますが、若年者では15年で15%から50%ぐらいの方が再手術を必要とします。
このページの執筆医師【中野清治

【出典】 寺下謙三/日本医療企画
標準治療(第3版)