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性器ヘルペス
【せいきへるぺす】

標準治療コラム > 婦人科

 単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)1型(HSV-1)、2型(HSV-2)の外陰部への感染によって起こります。ヘルペスウイルスは、普段は何も悪さをせず、脊髄の神経細胞に潜伏感染していますが、免疫の低下などの何らかのきっかけによって活性化し、神経繊維を伝って抹消に移動し、皮膚や粘膜にあらわれ病変をつくります。
 初感染と潜伏感染していたヘルペスウイルスの再活性化による再発とでは症状が異なります。初感染の場合の潜伏期は2~10日と考えられています。水ぼうそうのウイルスと同じ仲間のウイルスで、症状はかゆみや痛み、違和感を伴って突然出現する小さな水泡です。子宮頸部や膣粘膜に病変をつくることもありますが、多くは外陰部、肛門周囲、大腿部です。発熱を伴うこともあります。3~5日で水泡が破けて合わさり浅い潰瘍(かいよう)をつくります。外陰部や肛門周囲で互いに接している部分に対称性に特徴的な病変をつくります。kissing ulcer=接吻潰瘍といいます。痛みのために排尿が辛く、場合によっては強い痛みのために歩行が困難になることもあります。鼠径(そけい)部(脚の付け根)のリンパ節が腫(は)れたり、頭痛などの髄膜炎に似た軽い症状を伴うこともあります。発症から1週間前後の時期に症状が最も強くなりますが、多くの場合、2~3週間のうちに自然治癒します。再発では初感染よりも症状が軽いことが多く、外陰部などに狭い範囲で1~数個の水泡あるいは小さな潰瘍をつくり、7~10日のうちに自然治癒します。外陰部の違和感や神経痛、倦怠感などの前兆があり、発症が予測できることもあります。
 診断はヘルペスウイルスを検出することが最も確実と考えられますが、時間と費用がかかる上に感度が低いので実際的ではありません。臨床で最も用いられる方法は、潰瘍の部分の細胞を顕微鏡で調べる細胞診とHSV抗体を調べる方法です。擦りとった細胞の中に核内封入体というヘルペス感染特有の所見があれば、かなり確実な証拠になります。抗体は初感染の初期には陽性に出ないこともありますが、症状や診察所見からヘルペスが疑わしい時には治療を開始しておいて、後に確認するというふうに使えば非常に有用です。HSV-1の感染かHSV-2の感染かを調べておくこともその後の役に立ちます。
 初感染の性器ヘルペスのうち約半数はHSV-1によるものですが、再発の場合に検出されるのはほとんどがHSV-2です。HVS-2はほとんど性器の感染しか起こさず、HSV-1に比べて再発が多いという特徴を持っています。感染したウイルスの型を知ることで、再発に対する用心のしようもあります。
 治療は、アシクロビル(ゾビラックス)またはバラシクロビル(バルトレックス)の内服または点滴静注です。内服治療にするか点滴静注にするかは病状の重症度によります。ゾビラックスは体内での代謝が速く、1日に5回の内服が必要です。バルトレックスは腸で吸収された後に体内でアシクロビル(ゾビラックス)になるプロドッラグで、1日2回の内服で済みます。臨床では、バルトレックスが多く処方されるようになってきています。これらの抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑え、病状を早く終息に向かわせることができますが、潜伏感染しているウイルスを排除することはできません。このためヘルペス感染には再発が付きものです。完全に治すことは不可能かも知れませんが、症状の出現前、前兆の段階で薬を内服することで発症を未然に防ぐことができます。

●処方
 ・初発
  バルトレックス錠(500mg)  1回500mg、1日2回、5~10日間 内服
 ・再発
  バルトレックス錠(500mg)  1回500mg、1日2回、5日間 内服
 (片瀬功芳


寺下医学事務所
「標準治療」
JLogosID : 14820744


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「標準治療」寺下 謙三

約570の病気の情報 (症状、診断方法、標準的な治療方法、予後、生活上の注意など)を診療科目別に掲載している 「家庭の医学事典」です。

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編集: 寺下 謙三
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ISBN: 978-4890417162