幻の町
【東京雑学研究会編】
【雑学大全】 地理 > 場所
JR富山駅から北陸線で二五分の富山県魚津市から見られる「喜見城」という町は地図にのっていない。
なぜなら喜見城は一定の条件のときだけあらわれる蜃気楼だからだ。
晩春から初夏にかけて、風のない晴れた日の午後、うっすらと漂う煙のような靄が水平線上にかかる。それが少しずつ形を結んで町の形になる。そこには本物の町そっくりにビルもあれば鉄塔や工場も見える。
蜃気楼の町は二~三分で消えることもあれば、三時間以上も見え続けるときもある。
魚津市では、晩春から初夏にかけて、黒部上流の雪解け水が富山湾に注ぎ込んで海水の温度を下げる。一方、三陸沖の湿った暖かい空気が富山湾上空に流れ込む。
つまり、海水付近の空気の密度は非常に高くなり、上空の空気は密度がきわめて低くなる。
この密度の差が太陽の光を屈折させて、陸にある町の風景を海の上に映し出すのだ。
魚津市の人々は、昔からこの蜃気楼の町にいくつもの名前をつけてきた。「喜見城」は天上人が住む神様の国の城のこと。これ以外にも「海市」「蓬莢島」「狐の森」「貝櫓」などの呼び方がある。
蜃気楼は「蜃」という中国の想像上の動物が息を吐くときに出現する楼閣のことだといわれている。
北アルプスの雪解け水と移動性高気圧によって作り出されるこの蜃気楼の出現予測は難しい。年に何度も見られることもあれば、九年間、全く見られなかったこともある。ただし、九年間、蜃気楼が見られなかったのは公害の影響であるとする意見もある。
蜃気楼の現れやすいのは、東経一四〇~一五〇度、北緯三〇~四五度の位置に移動性高気圧があり、二~三日、晴れが続いていて、当日は晴れか薄曇りのとき。無風か北向きの微風で、最低気温と最高気温の差が大きい日に見られやすい。魚津市の蜃気楼は午後二~四時の時間帯に現れることが多い。
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【この辞典の書籍版説明】
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